剪除法は理論的には極めて再発が少ないとされています。これまでに当院へ再発したといらっしゃった方は再発と言うよりは取り残しと言った方が良い場合がほとんどでした。アポクリン腺は大部分が腋毛の範囲に集中していますが、欧米の文献によると、わずかにその範囲を超えて存在することが知られています。そうすると腋毛の範囲の手術ではわずかに取り残す可能性が出てきます。しかしあまり広範囲な剥離は術後の創の合併症の可能性を高めますので必要最小限にとどめるよう努力しています。仮に少量のアポクリン汗腺を残したとしても99%程度は除去されていますので、臭いはほとんど消失します。少なくとも他人が気付くような臭いは残りません。腋臭とは異なる体臭は、この手術で消すことは出来ません。
アポクリン汗腺から毛庖へ繋がる導管部分は切除することは、理論的に皮膚を全部切除する以外にできません。この導管の残存が臭いの原因となると言う言説もありますが、まず仮にそうであってとしても、臭いの主たる原因であるアポクリン汗腺の99%以上は切除されていますので、極めて僅かなものであり、他人に感付かれる臭いとなることは無いと思われます。
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再発したわきが・腋臭症の顕微鏡写真
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剪除手術後の再発実例(取り残しと言った方が正確か。)
剪除法による手術後に再発(と言うより取り残し)した例を、ヨード澱粉反応を用いて、アポクリン汗腺の残存部位を明らかにしました。
第1例
他医、形成外科にて剪除法による腋臭の手術を受けた例
楕円部分が前回の手術で剪除したと思われる部分です。
剪除した部分の外側を1周回るように反応を生じた青紫部分が広がり剪除が不十分だったことを示している。剪除した部分の真ん中にも青紫に染まった部分があり剪除が不十分だったと考えられる。また染色部分に一致して、腋毛が残っているように見えます
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反応前
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反応後
第2例
①はヨード澱粉反応で汗の範囲を明らかにしました。
②はその部分をマーキングしたものです。
③は染色部分を洗浄した後です。
染色された部分に腋毛が多く残っていることが分ります。
剪除法としては不十分な剥離、切除だったのだろうと思われます。剪除法で腋毛が完全に無くなる分けでは無いのですが、この症例ではやや残りすぎだと思われます。
外来でも明らかに臭いがあり、再手術で効果が期待できると思われます。
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①
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②
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③
第3例
第2例に比べると、剪除法としては十分ですが、剪除した脇の周囲に少し、汗腺が残っているようです。ただ、臭いは、ご本人が気にするほどはなく再手術の適応はありませんでした。
第4例
器械による剪除法を受けられたとのことでしたが、臭いが残っていると来院された方です。剪除法としてはうまく行っている例だと思われますが、本人の強い希望で再手術をしました。上図で分る通り染色された部分は小さな範囲です。その部分のみを再剪除しました。顕微鏡検査の結果はその部分にアポクリン汗腺の残存を認めました。その後は臭いが消えたとの事です。
上記のような場合には再手術によって残ったアポクリン汗腺を除去すると効果があると思われる。
剪除法による手術後の再発例
これは前回の手術が不十分だったと思われます。白い瘢痕組織の中にアポクリン汗腺が埋まるように見えています。
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汗腺切除前
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汗腺切除後
超音波法後の再発
これも再発と言うより取り残しです。
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汗腺切除前
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汗腺切除中
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超音波法による手術後の再発例の顕微鏡写真です。 赤丸の間にあるややひしゃげた輪ッカのような塊が全てアポクリン汗腺です。
結論としては超音波法ではアポクリン汗腺を除去することは、ほとんど不可能であり再発もおそらく必至であると言えます。
剪除法では少なくとも手術を加えた場所にアポクリン腺の再増勢はほとんどありません。従って、再発と言うよりは取り残しと言った方が良いでしょう。
いずれの場合も、再手術で効果が期待できます。ただ、他覚的に臭いが無く自覚症状のみ強い場合には、他の心理的要因等も考慮した方が良いと思われます。その場合、治療は外科医の手を離れることになります。
他医にて剪除法で手術を受けられた後、まだ多汗との事で来院された患者さんです。再手術の強い希望があり、前回手術の範囲を約1センチ超える円周で再度剪除しました。その方のヨード澱粉反応が以下です。前医での手術の範囲は全く反応が無く、汗も無いことがわかります。その周りは真っ黒に染まっていますが、アポクリン汗腺よりはエクリン汗腺が主体の発汗と思われます。エクリン汗腺は全身に分布していますのでこれを全部切除することは不可能です。