手術・治療

剪除法

手術・治療

手術でわきの下の汗を減らせば、根本的な治療になります。手術法には大きく切開して皮膚を反転し、アポクリン腺を直接見てはさみで切除していく剪除法 (せんじょほう) と、比較的小さな切開から特殊な機具を入れ、皮膚の裏側を引っ掻くようにしてアポクリン腺をかき出すそうは法、小さな切開から吸引器、あるいは超音波メスを入れてアポクリン腺を吸い出す吸引法などが主に行われている術式です。

それぞれ一長一短があります。掻爬法は手術効果が高く、慣れた術者が行うと傷も比較的きれいです。しかし常によい結果を得ることは困難で、少しでも手元が狂うと皮膚の壊死を生じ、かなり目立つ傷あとを残すことになります。

吸引法は短時間で手術がすみ、傷あとも 1 から 2cm と小さくて目立ちません。しかしアポクリン腺の取り残しが多く、効果が不十分だったり、一旦汗が減って治ったように見えても、早くて1ヶ月、遅い時で1年位経ってから、ワキガが再発してしまうことも多いのです。やはり直視下手術に比べて汗腺の切除がどうしても不十分になってしまうこと、そして一時的には効果があっても汗腺の切除が不十分なため汗腺の再生が起こり、神経支配が再開すると腋臭も再発することになるようです。

剪除法は 5cm 程度の少し長めの傷あとが残ってしまうのが欠点です。手術時間も片側45分から1時間近くかかりますが、直接アポクリン腺を見て確実に切除していきますので、効果が確実で再発も少ない術式です。傷あとも1年くらい経つとわきの下のしわに紛れ、目立たなくなるのが普通です。めったにないことですが、1年経っても傷が目立って気になる場合には、その傷を切除し直す簡単な手術で傷をきれいにすることも可能です。

当院ではそうは法と吸引法は行っていません。それは汗の量を減らす効果が不安定なのと、万一術後出血が起こってわきの下に血が溜まった時に、小さな傷からでは、止血するのも血の塊を取り出すのも困難だからです。その点剪除法は効果が安定しており、万が一の術後出血時も切開部が大きいので、止血も比較的簡単に行えます。わきの下に血が溜まっても、術後2日目までに対処すれば傷の治りは全く問題ありません。

剪除法

腋の下の皮膚の解剖(以下の説明の参考にされてください。)

  • 腋の下の皮膚の解剖

手術の実際

まず局所麻酔をわき毛の生える部分より、ひとまわり大きめに注射します。わきの下のしわに合わせて5cm前後の切開(1箇所ないし2箇所)を入れ、そこからわきの下の皮膚を反転してアポクリン腺を露出させ、毛根のある範囲で、徹底的にアポクリン腺を切除します。アポクリン腺は大きく、直接見えますので、完全に取りきれたことを確認するのは容易なことです。一方エックリン腺は肉眼では確認できないのですが、術後の汗の減少具合から考えて、かなり取れているのは確かです。皮脂腺の 一部も切除しています。このような手術方法ですと、わきの下の汗の量は 1/3 から 1/5 くらいまで減少します。この程度まで汗が減ると臭いも人並みになり、腋臭症の改善がはっきり実感できるようになります。原則として入院は必要です。術後3日間は術後出血を予防するために腕をあまり動かさない様にする必要があり、安静を保つことが大切です。両側の場合は、4泊5日の入院とさせていただいております。

  • 点線の範囲に充分な局所麻酔を注射後腋の下に上の図のように1ないし2箇所の切開をおきます。

    点線の範囲に充分な局所麻酔を注射後腋の下に上の図のように1ないし2箇所の切開をおきます。

  • 腋毛の範囲が縦長の場合には切開が2箇所となることがあります。通常は1箇所で行います。

    腋毛の範囲が縦長の場合には切開が2箇所となることがあります。通常は1箇所で行います。

  • 6~7mmの深さで切開します。腋窩筋膜の深さです。

    6~7mmの深さで切開します。腋窩筋膜の深さです。

  • アポクリン汗腺、毛根、皮下脂肪、真皮深部の層

    アポクリン汗腺、毛根、皮下脂肪、真皮深部の層

  • 皮下を腋窩筋膜の上で腋窩(楕円の点線の範囲)全体に剥離します。

    皮下を腋窩筋膜の上で腋窩(楕円の点線の範囲)全体に剥離します。

  • 一旦、腋窩筋膜の上でアポクリン汗腺を含む全ての皮下を剥離します。

    一旦、腋窩筋膜の上でアポクリン汗腺を含む全ての皮下を剥離します。

  • 皮下のアポクリン汗腺をはさみで丁寧に削ぎ取ります。この時毛根の大部分とエクリン汗腺の一部が同時に除去されます。

    皮下のアポクリン汗腺をはさみで丁寧に削ぎ取ります。この時毛根の大部分とエクリン汗腺の一部が同時に除去されます。

  • 完全に皮下の真皮が露出しています。皮脂腺のぶつぶつのみが見えています。

    完全に皮下の真皮が露出しています。皮脂腺のぶつぶつのみが見えています。

腋臭の手術は、アポクリン汗腺を如何に除去するかにかかっています。アポクリン汗腺は真皮にかなり強く固着していますので、かなり鋭いものでそぎ落とすしか方法はありません。上の図で示したような方法が最も確実なやり方です。時々、汗も全くかかないようにして欲しいという希望があります。しかし皮膚の組織図を見ていただくとわかるようにエクリン汗腺は皮膚のかなり浅い所にありエクリン汗腺を完全に切除することは真皮の大部分を削ぎ落とすこととなり、術後に皮膚の壊死に繋がる可能性が非常に高くなります。従って,当院ではアポクリン汗腺を確実に切除する術式を行っており、汗の量に関しては著減はするもののゼロにはなりません。又、皮膚の切除はしませんので、美容的には優れています。

手術に伴う痛み

麻酔の注射が終われば、手術中に痛みを感じることはほとんどありません。しかし手術中ずっと腕を上げた姿勢を続けますので、肩が凝ったり腕がしびれてきたりすることはあります。術後に麻酔が切れるとその日の夜は痛みを訴える方が多いようです。ただ、適切な鎮痛剤の投与で充分に対処できます。又手術翌日以降になっても痛みが引かないような場合、まれなケースではありますが、術後出血を起こし、わきの下に血が溜まってしまっていることがあります。この場合は、かなり強い痛みを感じます。早急な処置が必要となります。

手術の副作用

手術したわきの下に 5cm 前後の傷が1~2本残ります。術後半年ほどで傷はしわにまぎれてきますが、傷跡が完全に消えることはありません。ただ時間と共にかなり目立たなくはなります。当院ではアポクリン腺を完全に取ることを第一義に手術しています。その結果皮膚がとても薄くなると、縫合部の傷が治りが遅れ、場合によっては皮膚の一部が壊死し、傷が治るまでに2週間以上かかることもあります。わき毛は6割から7割くらい生えなくなります。これはアポクリン腺と毛根の深さが同じくらいなので、アポクリン腺を取ると大部分の毛根は取れてしまうためです。ただ一部の毛根はアポクリン汗腺よりも皮膚の浅いところにあり完全には取りきれません。主目的はアポクリン汗腺の除去と考えていますので、毛根の全切除にはこだわりません。瘢痕拘縮といって、術後1ヶ月から3ヶ月くらい経つと、わきの下の皮膚にヒキツレを生じることがあります。通常は6ヶ月から9ヶ月くらいで自然に落ち着きます。