ソケイ(鼠径)ヘルニアをクーゲル法を中心に、基本的に1泊2日の短期入院で実施しています。
最近大きく術式が変わってきた手術です。人工の布を用いた補強方法でより痛みが少なく、再発が少ない術式へと変わり、私共の病院でも以下のような術式を行っています。
当院での術式
1.2.3は人工布を用いてソケイヘルニアの入口あるいは出口を塞ぐ治療
- クーゲル法…最近最も頻繁に行われている術式、ヘルニアの経路の入口を塞ぐ、理論的には理想的術式。
- ダイレクトクーゲル法…上と一緒だが、アプローチ方法が従来と同じ
- メッシュ&プラグ法…ヘルニアの出口を塞いで治療する術式、これまでの術式で症例数が多い。
- 人工布を用いない従来の方法…ヘルニアの出口を処理するが人工布を用いない。以前の術式、10%程度の再発がありうる。
入院、手術、退院の流れ
入院一日目 | 午前9時頃までに入院、病棟で点滴等の処置、手術室へ 手術室にて硬膜外麻酔あるいは腰椎麻酔にて麻酔実施 クーゲル法等にてヘルニアの根治術(30分から50分くらい) 病棟へ帰室、夕方から食事が開始されます。点滴も終了です。 |
入院二日目 | 午前中の回診後異常なければ退院です。入院は希望により延長可です。 |
麻酔方法
硬膜外麻酔を主に、静脈麻酔併用にて入眠も(希望による)
通常はヘルニアの手術の場合、腰椎麻酔、局所麻酔、硬膜外麻酔の三者から選択されます。
それぞれの利点、欠点について。
腰椎麻酔 | 利点 | 臍くらいから下の下半身が完全に麻痺します。 麻酔の効きが早く、手術をすぐに始められます。 |
欠点 | 時に術後頭痛が残ることがあります。 術後排尿が困難となり、尿を出すために管を入れる必要があることがあります。 |
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硬膜外麻酔 | 利点 | 術後の頭痛はありません。 腹筋の緊張が残りますので、術中にヘルニアを覆う人工布が適切かどうかを腹筋に力を入れて確かめることができます。 排尿困難の症状が出にくいです。従って早く離床できます。 |
欠点 | 麻酔が効き始めるまでに時間がかかり、手術開始までに時間がかかります。手技的にはやや困難な部類に入ります。 | |
局所麻酔 | 利点 | 術後頭痛、排尿困難は生じません。 下半身は全く麻痺しませんので術後すぐに起床できます。 |
欠点 | 麻酔の注射は局所になりますので、麻酔そのものが少し痛みを伴います。 又、途中で麻酔を追加する必要があることがあります。 |
手術までの流れ
外来受診 | 外科の外来をまず受診してください。そこでヘルニアか否かの診断をします。 診断が確定後患者さんのご希望にしたがって、手術の日程の調整をします。 その日のうちに、血液検査、胸部レントゲン、心電図、場合によってはCTなど術前に必要な検査を終了します。 |
入院当日 | 受付終了後、病棟へ移ります。そこで看護師から説明等があり、術前の点滴等が始まります。 手術室へ移動します。 手術終了後病室へ戻ります。当日は安静です。食事は夕食から始まります。麻酔が覚めるとトイレ等へは自分で行ってもらいます。 |
退院 | 1泊2日から2泊3日位を目安に患者さんと相談して決定し、患者さんの希望にしたがって決定します。1泊2日から4泊5日程度が一般的です。 |
外来 | 抜糸のために、一度受診して下さい。その時に傷の状態をチェックしそれで終了です。 |
予約 | メールあるいは電話でも可ですが、術前検査のために外来へ1度は、お越し下さい。 |
ソケイヘルニア、大腿ヘルニアの病因
病態としては、先天的要因と後天的要因の二つがありますが、いずれでも鼠径部と呼ばれるところ の筋肉や筋膜が弱って内臓(小腸など)が弱い部分を通っておなかの外、皮下へ飛び出すことを言います。
どの場所から内臓が飛び出すかで、外ソケイ、内ソケイ、大腿ヘルニアに分類されます。
ただ治療法には大差はありません。以下に図を使って説明いたします。
ソケイヘルニアの解剖学的原因(腹の中から見た様子を中心に)
腹部を臍の高さで横断し、腹の中から見た図。膀胱や腸骨動静脈が見えている。
赤い四角で囲った部分がヘルニアが脱出する場所です。右の図はその拡大図です。
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※下のイメージは横スクロールでご覧頂けます。
腹部の表面から腹部の内部を覗き、腹腔から鼠径部へ至る精索の走行の解剖図
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外鼠径ヘルニア 内鼠径輪から小腸が外へ向かって飛び出している。
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クーゲル法による根治手術
ヘルニアが脱出する腹腔側の穴を内側から覆います。
上野写真の赤い楕円の範囲を広く覆うので、鼠径ヘルニア、大腿ヘルニア等の予防になります。
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使用するクーゲルパッチ
従来の方法
もっと表面に近いところでヘルニアを処理し、腹壁を補強する
下図はメッシュ&プラグ法です。腹腔から見るとヘルニアの出口を補強する術式です。腹壁に近い方の出口を処理します。
下図でもわかるように、クーゲル法は将来ヘルニア発生が予想される腹壁の脆弱部分をも内側から補強できる。
腹壁にできたヘルニアの通り道を塞いで、ヘルニアが二度と生じないようにするのが手術の目的ですが、下図をご覧いただくとわかるように通り道の内側から塞いでしまうクーゲル法は理論的に優れた方法と思われます。当院でも特別の事情が無い限りこの方法で手術を行なっています。特別の事情とは、下腹部の手術等の後で腹膜に癒着などが予想される場合です。
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メッシュ&プラグ法
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使用する材料
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鼠径ヘルニア模式図
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メッシュアンドプラグ法模式図
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クーゲル法模式図
当院での手術の実際 硬膜外麻酔から手術術式まで
手術はだいたい30分から50分程度で終了します。
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硬膜外麻酔手技
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クーゲルパッチ
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クーゲルパッチを挿入するところ。
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創の閉鎖